前回の記事では景気サイクルと株式投資の関係についてご説明しました。今回は、多くの方が気になっている老後資金と配当投資の関係について考えてみます。
「老後に必要なお金はいくら?」「配当金で生活費の一部をまかなうには、どれくらい投資すればいいの?」という疑問に、逆算という考え方でお答えします。
老後資金が話題になるきっかけ
2019年、金融庁の審議会がまとめた報告書をきっかけに、いわゆる**「老後2000万円問題」**が大きな話題になりました。
これは「年金だけでは毎月の生活費が不足し、その不足分を30年間積み重ねると約2000万円になる」という試算がもとになっています。
ただし、この金額はあくまで一つのモデルケースです。必要な金額は、住まい・家族構成・生活スタイル・年金の受給額などによって、人それぞれ大きく違います。大切なのは、自分の場合はいくら必要かを考えることです。
老後資金の2つの考え方
老後のお金の使い方には、大きく分けて2つの考え方があります。
① 取り崩し型
貯めた資産を少しずつ売却・引き出して生活費に充てる方法です。
- メリット:必要な資産額は比較的少なくて済む
- デメリット:資産が減っていくため、長生きするほど資産が尽きる不安がある
② 配当(インカム)型
株式などの資産は売らずに持ち続け、配当金を生活費に充てる方法です。
- メリット:元本を減らさずに、毎年お金を受け取り続けられる
- デメリット:同じ金額を受け取るには、より大きな資産が必要になる
| 取り崩し型 | 配当型 | |
|---|---|---|
| 資産の扱い | 少しずつ減らしていく | 基本的に減らさない |
| 必要な資産額 | 比較的少ない | 比較的多い |
| 長生きへの備え | 資産が尽きる不安あり | 配当が続く限り安心感がある |
| 心理的な負担 | 資産が減るのを見るのがつらい | 株価が下がっても配当があれば落ち着きやすい |
実際には、両方を組み合わせるのが現実的です。配当を生活費の柱の一つにしつつ、足りない分は取り崩しで補うといった形です。
逆算で考える「配当でまかなう金額」
STEP 1|老後の毎月の生活費を見積もる
今の生活費をもとに、定年後に必要な毎月の生活費を見積もります。
STEP 2|公的年金の見込み額を確認する
「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で、将来受け取れる年金の見込み額を確認できます。
STEP 3|毎月の不足額を計算する
毎月の不足額 = 毎月の生活費 − 年金の見込み額
STEP 4|年間の不足額を出す
年間の不足額 = 毎月の不足額 × 12ヶ月
STEP 5|配当でまかなう割合を決める
年間の不足額のうち、どれくらいを配当金でまかないたいかを決めます。
具体例で計算してみよう
ここでは計算の流れを理解するための仮の数字で試算します。
- 毎月の生活費:25万円(仮)
- 年金の見込み額:月18万円(仮)
毎月の不足額 = 25万円 − 18万円 = 7万円
年間の不足額 = 7万円 × 12ヶ月 = 84万円
年間84万円の不足を、すべて配当金でまかなう場合に必要な投資額を考えます。
平均配当利回り別の必要投資額
必要な投資額 = 年間に必要な配当金 ÷ 平均配当利回り
| 平均配当利回り | 必要な投資額(NISA口座・非課税の場合) |
|---|---|
| 3.0% | 2,800万円 |
| 3.5% | 2,400万円 |
| 4.0% | 2,100万円 |
税金がかかる場合はさらに多く必要
特定口座で受け取る配当金には約20%の税金がかかります。手取りで84万円を受け取るには、税引き前で約105万円の配当が必要になります。
税引き前に必要な配当 = 84万円 ÷(1 − 0.20315)≒ 約105万円
第3回・第18回で解説したとおり、新NISA口座で受け取る配当金は非課税です。老後に向けた配当投資では、NISA口座をできるだけ活用することが大きな効果を生みます。
配当で老後資金をつくる3つのポイント
① 早く始めて、時間を味方につける
連続増配株を長く持つほど、第10回で解説した**YOC(取得原価利回り)**が上がっていきます。始めるのが早いほど、少ない元本で大きな配当を受け取れる可能性が高まります。
② 配当を再投資して雪だるまを大きくする
現役のうちは、受け取った配当金を再投資に回すことで、配当がさらに配当を生む流れをつくれます。定年後に配当を生活費に回す段階に切り替えるイメージです。
③ 減配しにくい銘柄を中心にする
老後の生活費を支える配当は、安定していることが何より大切です。第22〜24回で解説したように、累進配当株や通信・インフラなど景気に左右されにくい銘柄をポートフォリオの土台にすると、配当が大きく崩れにくくなります。
老後の配当生活で気をつけたいこと
① 減配・無配のリスク
企業の業績が悪化すれば、配当は減ることがあります。1銘柄や1業種に頼りすぎない分散が欠かせません。
② インフレ(物価の上昇)
物価が上がると、同じ配当金で買えるものが少なくなります。増配が続く企業を選ぶことは、インフレへの備えにもなります。
③ 配当の受取月に偏りがある
日本企業は6月・12月に配当が集中しやすいため、毎月の生活費として使うには受取月の分散や、ある程度の現金の確保が必要です。
④ 生活防衛資金は別に確保する
病気や急な出費に備えて、数ヶ月〜1年分程度の生活費は現金で持っておくと安心です。株価が下がったときに、慌てて株を売らずに済みます。
筆者メモ 50代後半になり、定年後の生活を考える機会が増えてきました。私が配当金100万円を目標にしているのは、まさにこの「年金だけでは少し足りない部分」を配当で補いたいという思いからです。月に換算すると約8万円。これがあれば、生活にゆとりが生まれ、株価の上下にも振り回されずに済みます。入社当時から続けてきた持株会と、新NISAでの毎日の積み上げ。この2本柱で、定年後も配当が届き続ける仕組みをつくっていきたいと考えています。
老後資金について確認できるサイト
- ねんきんネット(日本年金機構):将来の年金見込み額を確認可能
- 日本年金機構:ねんきん定期便や年金制度の公式情報
- 金融庁:NISA制度や資産形成に関する公式情報
- SBI証券・楽天証券:NISA口座での配当金受取状況を確認可能
- 株探(かぶたん):連続増配株や配当利回りランキングを確認しやすい
- Yahoo!ファイナンス:保有銘柄の配当情報を確認可能
まとめ
- 老後に必要な金額は人それぞれ。自分の場合を逆算することが大切
- 老後資金の使い方には取り崩し型と配当型があり、組み合わせるのが現実的
- 「生活費 − 年金」で毎月の不足額を出し、配当でまかなう金額を決める
- 必要な投資額は「年間に必要な配当金 ÷ 平均配当利回り」で計算できる
- 新NISAを活用すれば、配当金を非課税で受け取れる
- 減配・インフレ・受取月の偏りに備え、分散と生活防衛資金を忘れずに
老後資金を配当で考えると、「いつまでに、いくら必要か」がはっきり見えてきます。次回は「複利効果とは?配当再投資の力|雪だるま式に増える仕組み」についてわかりやすく解説します。
※この記事の試算は仮の数字を使ったものです。実際に必要な金額は個人の状況によって異なります。年金や税金の詳細は公的機関の情報をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
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